エコスタイルで暮らすやさしい自然派住宅
人に優しく、地球に優しい自然派住宅つくりかたをまとめた1冊をWeb公開中!ぜひ一度ごらんください。
ようこそ、わが家へ。──というのも、僕たちの設計室は、僕の家族が暮らす住宅の1階部分にあるんです。完成したのは1997年のこと。娘がアトピー性皮膚炎に悩まされていたため、家族が心身ともに健康的に暮らせることをテーマに、木や土や紙などの自然素材をできるかぎり活かすようにして建てました。それをきっかけに20年以上、住まい手はもちろん、地域や地球にもやさしい家づくりを追い求めてきたつもりです。北海道内で住宅の設計・施工を手がける会社のなかでは、自然素材を使う比率がもっとも高いのではないでしょうか。設計室には、そのような素材のサンプルもたくさんありますので、お気軽にご覧にいらしてください。そして、あなたにとって理想的な住まいについて語らいましょう。リビングでワインでも飲みながら、というような気分でじっくりと。
そんなわけで、少しワインの話をさせてください。近ごろ「自然派ワイン(ヴァン・ナチュール)」ということばをよく聞くようになりました。化学合成された肥料や農薬を使わない有機栽培のブドウで醸造するワインを「オーガニックワイン」と呼びますが、「自然派ワイン」の場合はさらに、自然酵母によって発酵させることや、補糖・補酸をしないことなどの条件が加えられます。土壌づくり、ブドウづくり、ワインづくりという流れのすべてにおいて、手間をかけながら自然の力を引き出すようにつくられているんですね。この話を聞いたとき、まさに僕たちの家づくりと同じ考え方だと思いました。理由は3つあります。1つめは、先ほど述べたとおり、人や地球にやさしい建材(ブドウ)を使うこと。2つめは、それらを施工(醸造)する際の接着剤(酵母)などもできるかぎり天然由来のものを使うこと。3つめは、職人が素材を見極め、ていねいな手仕事で自然の力を活かした家(ワイン)を実現することです。
そして偶然にも、僕たちはこのような考えでつくった家々のことを「自然派住宅」と呼んできました。施工の際に大切に思っていることを少し補足させていただくと、たとえば接着剤は、一般的な木造住宅で200kgほども使用されています。目には見えなくても、シックハウス症候群や化学物質過敏症に悩む人にとっては見逃せない大きな存在なのです。また、床・壁・天井の裏側にある構造材や断熱材なども、普通に暮らしている分には視界に入りませんが、体積も重量も膨大です。僕たちは、構造材には合成接着剤で貼り合わせた合板ではなく無垢の木を、断熱材には新聞古紙をリサイクルしたセルロースファイバーを用いるなど、裏側までしっかりと、90%以上は自然素材による家づくりを実践しています。
このように徹底しているのは、せっかく建てたお住まいがご家族に対して悪影響を及ぼすリスクを、できるかぎり取り除きたいからです。しかし、アレルギーなどは人それぞれ異なるため、自然素材であれば何でも安心ということにはなりません。たとえば、天然のでんぷんを主成分とした接着剤や天然成分の塗料でも、それに反応してしまう人が存在する可能性があるのです。そのような場合は天然由来でリスクの低いものを選ぶなど、ご家族一人ひとりの状況を細かく確認しながら、家づくりの材料を丹念に探します。これは無垢の木ですら同様です。あまり多くはありませんが、木の種類によっては木の持っている化学成分などに反応してしまう人もいますので、過敏体質の方は木材選びも大切なポイントです。
以上のような化学的な要素のみならず、感覚的な要素も、家づくりとは切っても切れない関係だと思っています。人体は皮膚に守られ、衣服に守られ、そして家に守られていますよね。つまり家は「第3の皮膚」だという考え方があります。そこで、「第2の皮膚」である衣服について想像してみてください。チクチクするシャツ、蒸れやすいビニールのコート、鉄製の甲冑…どれも好んで着たいものではありませんよね。着心地のいいものだけを着ていたい。これ、僕にとってはどうしても譲れない感覚で、「第3の皮膚」に求めることもまったく同じです。五感すべてが心地よく満たされ、快適に呼吸ができる空間で暮らしたいんです。さらに「第3の皮膚」であるのなら、その外に広がる世界との調和も欠かせません。このように人と家と自然環境との関係性を総合的に追求する姿勢は、「バウビオロギー(建築生物学)」と呼ばれています。
では、最後に「第3の皮膚」の外側について。先ほど、僕たちが使う材料の「90%以上は自然素材」だと述べましたが、その大半は北海道内から集めています。とくに木材はほぼ100%が道産です。なぜなら、それが環境にやさしい家づくりだからです。どういうことでしょう。北海道では森林の成長量が伐採量よりも多く、木が余っているんですね。これを有効活用することで、木材の輸入を減らすことができる。そうすれば、輸送にかかるエネルギーの削減や、海外で起こっている森林破壊の抑制にもつながるわけです。
北海道で50年かけて育った木で家を建て、その家で50年暮らせば、ちょうどそのころには次の世代が家を建てるための新しい原木が育っている。もちろん、現代の家なら50年以上暮らすことも十分に可能です。このように循環するサスティナブル建築をめざすことも「自然派住宅」の大切な要件であり、僕たちの使命だと考えています。ところで、50年もののワインって、おいしいのかな…。
有限会社ビオプラス西條デザイン 代表取締役
エコ空間デザイナー 2級建築施工監理技士
1960年北海道伊達市生まれ。札幌市在住。
北海道におけるエコロジー建築デザインの
第一人者として活動中。
趣味はオーガニック家庭菜園・フィッシング・エコ旅。
著書に「やさしい自然派住宅」北海道新聞社刊がある。