敷地は長沼町の中心部から南東に少し離れた自然豊かな場所にある。南北に連なる小高い山を東に、そして小ぢんまりした森を南にそれぞれ臨む、2本の道路にはさまれた広い傾斜した土地である。土地の傾斜は、敷地の北東側の公道から南西側の私道へ下がっていて、私道側からアクセスできるように配置を計画した。
施主のKさんは、ご家族が化学物質過敏症ということもあり、セカンドライフを健康に暮らせるように、自然豊かで空気がきれいなこの土地を購入し、家を建てることを決めた。
計画にあたって、過敏症の元となるにおいに細心の注意を払うべく、使用される建材を詳細にKさんにご説明した。床、壁、天井の仕上げ材のみでなく、下地材や構造材の木材に至るまで、サンプルをご提示しながら、慎重に確認して進めた。木材については用途を問わず、よく使用するトドマツ、カラマツなどの他、スギ、ナラ、クルミ、タモ、イタヤカエデのサンプルをご提示し、このうちいくつかは各々分けて持ち帰っていただき、一定期間においを確認していただいた。そのうえで木材の性質と合わせて総合的に判断し、構造材には道産のエゾマツとトドマツ、また内装材には主にクルミ材とイタヤカエデ材を使用することとなった。外壁は道南杉の板材の縦張りで、柿渋塗装を施した。塗装はKさんが自ら行った。
平面計画においては南西側にリビング、ダイニング・キッチン、寝室といった居室を配し、北東側にトイレ、ユーティリティ、浴室などの水廻りをまとめた。また外観的には平屋のシンプルな形状で、南西側に広めのバルコニーを設け、リビング、ダイニングから出入りできるようにした。内装材として、床には無垢の木のなかでKさんにとって一番相性の良かった道産のイタヤカエデのフローリングを無塗装で使用した。そのほか家具などの造作には、2番目に相性の良かったクルミ材が使用された。壁はホタテ貝漆喰塗り仕上げ、天井は和紙貼り仕上げと、いつもの会社標準の仕様を採用した。
また設備機器として、キッチンはすべてステンレス製、洗面化粧台は扉など取り付けずシンプルにクルミの木で造作した。設備機器においても極力においが発生する元となりそうなものを少なく、シンプルで機能的なデザインを心がけた。
暖房は薪ストーブ1台でまかなっている。平屋建てでほぼワンルームのようなオープンな空間においては十分であった。換気システムはフィルター付き給気口から床下の給気チャンバーを通して新鮮な空気を室内に取り込み、集中換気扇を通して排気する第三種型のシステムを採用した。
断熱材も熟慮の上、セルローズファイバーではなくポリエステル健康断熱材を採用し、外壁の付加断熱には会社標準の木繊維リサイクルパネルを使用した。
工事においても工期を十分に確保し、換気を徹底し、においが極力残らないよう配慮した。工事後も内壁に塗ったホタテ貝漆喰の調湿作用により室内がほどよい湿潤状態に保たれている。
自然素材で無垢材といっても、においがないということではなく、むしろ木特有のにおいがそれぞれあり、人によっては相性が悪いものもあるため、事前の確認が欠かせない。
こうしてつくられた家を手にしたKさんは自然豊かな菜園に囲まれたこの地で、スローライフを楽しんでいる。