札幌の南に位置する山麓の、林に隣接する自然豊かな環境に、Hさんは理想の家を思い描いた。計画にあたってHさんは、ご自身で間取りを練り、各部屋の展開図をスケッチし、さらに様々な仕様やメモを細かく書き込んだノートをつくりあげた。私たちはこのノートをもとに具体的に計画を進めた。
家の骨組みである構造材には、道産のトドマツ材、エゾマツ材の無垢材を使用し、昔ながらの墨付け、手刻みにより加工・組み立てが施され、内部はほとんど真壁で柱と一部の梁が露出している。
2階は縁側をもつ和室で、鴨居、長押、杉の竿縁天井など本格的な和のしつらえとなっている。縁側は障子で仕切られ、縁側の格子の窓の障子から陽が柔らかく和室に注ぎ込む。畳は藁床の本畳で、縁側を通して注ぎ込んだ陽が、イ草の自ら発光するほのかな明りで和室らしい独特の雰囲気を醸し出している。
この和室に隣り合って洋風の書斎がある。二間分の幅をもつ堂々とした書斎カウンターは、硬いナラ材によるもので、窓には木製サッシが採用されている。椅子に腰かけながらこの窓を通して眼下に広がる街側の景色を臨むことができる。床にはこの部屋のみ道産のナラ材のフローリングを施した。
1階はLDKと水廻りがあり、玄関から廊下、洗面コーナーへとつながる空間の天井にはヒバ材の羽目板が施され、また1階全体の床にヒノキ材のフローリングが張られている。特にHさんの思い入れの強いお風呂はハーフユニットで、壁と天井には青森ヒバの羽目板が張られ、木の香りが全体に広がる心地よい空間に仕上がった。
また今回Hさんの特に最も思い入れの深い断熱は、すべての壁、床下、天井裏にいつもの会社標準のセルローズファイバーを乾式で施し、家がこの優しい断熱材ですっぽり包まれたかたちとなっている。
窓は昔ながらの引き違い窓を多用し、シンプルな切妻屋根の外観とカラマツ木酢液煮沸仕上板の外装材、さらには屋根の色や内部のシンプルな照明器具と調和して、全体的に懐かしく落ち着いた佇まいを醸し出している。
内部の壁面はすべてホタテ貝塗り壁で、Hさんご自身も休日を利用して自らコテを握った。
その他土佐和紙の天井、天然木による建具、造作家具など、手間を惜しまずしっかりとつくりあげた。
このようにしてHさんの強い思いと、私たちのバウビオロギーの精神と地産地消で道産材を使うという根本的な理念、さらには人にも家にも優しいという姿勢が、この24坪ほどの住宅に凝縮されて完成した。