周囲に広大な農地が広がる南幌町の築40年以上を経た住宅は、ご夫婦二人の住まい。
かつては農家でもあったため、広い敷地内には農具を収納する納屋や倉庫などがあるほか、庭には木々や生垣があり、家庭菜園などもある。
リノベーションの依頼を受けて、当初は2つのタイプの計画を提案した。
間取りを大きく変えず、断熱改修と外・内装の改修をした案と、間取りを大きく変えた案。
間取りを大きく変えた案を提案したのは、現況に構造的な不安があったためである。
2階が1階より小さく、また2階の外壁の下に間仕切り等の壁が少ない、いわゆる直下率が極端に低い構造となっていた。
それを解消すべく、1階の間仕切りを変更し、さらに基礎を増やすという大掛かりな工事はコストもかさむが、
施主は間取りを大きく変える案を選択した。
設計にあたっては、現地調査と建築当初の確認申請時の図面などの情報から、解体前に各階の柱、梁などの構造材の配置を想定した図面を書いた。
さらに現在の耐震基準に適合するよう筋交や耐力ボードにより耐力壁をバランスよく配置し、コンピューター上でシミュレーションを行った。
また偏心率を適正化させ、必要な接続金物も算出した。
その上で実際に解体を行い、想定と違いはないか確認し、施工上難しい箇所などはその都度現場と施工法を検討し、
あらためてコンピューターで構造解析などを繰り返した上で構造補強を行った。
腐食した柱や梁は交換したり補強して、耐力を向上させた。
その上で外壁のセルローズファイバーによる断熱材の充填と付加断熱、床下と小屋裏の断熱など普段の新築と同じ仕様で断熱気密改修を施した。
一方で全体の計画としては、ご夫婦の生活スタイルや嗜好性を想像し、間取りや動線、しつらえ方に気を配った。
外壁は当初から強い希望であったカラマツの木酢液仕上げの板材を全面に採用した。
内部の構成で最も特徴的なのは、広い玄関土間と、家の中央に位置するカウンターテーブルと一体化したアイランドキッチンである。
どちらも当初の要望にはなく、こちらから提案したものである。玄関土間には下足棚のほか納戸と流し、そして勝手口がある。
外の作業や薪の搬入などで使い勝手がよい。もともとの玄関の土間はこれほど広くはなかったが、間仕切りを移動することに伴って広げた。
農家の名残として床を三和土風の仕上げとし、半屋外的な作業の場としても活用できるとともに、
隣り合う和室の床の高さが土間から座る高さにちょうど良く、来客の際のもうひとつの憩いの場となるよう計画した。
この玄関土間から和室、ダイニング・キッチン、居間へと空間が連続する。
アイランド型の造作の木製キッチンと、これと一体化したカウンターテーブルが中央を占め、南側の壁面に収納の棚がある。
床はナラ無垢のフローリング、壁は珪藻土で黄聚楽(きじゅらく)色を施し、天井はスギの板材を採用した。
窓にはトリプルガラスの木製サッシ、建具もトドマツの造作。表しとした柱と梁がダイナミックに空間を構成し、全体的に和の雰囲気を演出した。
窓からの陽の入り方も柔らかく、茶系の色合いにより温かみを持たせる効果を出している。
またどこか懐かしい和風の雰囲気とともに、キッチンのスチール製の脚やダクトレールに取り付けたスポットライト、
またスクラッチタイルを施した薪ストーブの炉壁やスチール製の炉台など、随所にモダンなデザインも取り入れた。
内観、外観ともに仕上げは一新したにもかかわらず、もう何十年も経たかのような素材の味わいに仕上がった。