伊達市内を走る国道と噴火湾に挟まれた、小高い丘の一画「伊達エコビレッジ」内にこの住宅はある。敷地は両隣をエコ住宅に挟まれていて、海側に向かってやや傾斜している。道路側である東側から北側にかけては有珠山を含めた美しい山並みを望むことができ、西側にはビレッジ内の庭越しに噴火湾が広がっている。この恵まれた環境の中で、Tさんは愛犬と暮らしながら趣味を楽しめる家を望まれ、「人生を楽しく過ごす」ということを基本に計画が進められた。
建物の平面形状は1台分の駐車スペースを確保するとともに、玄関と道路との距離の関係からL字形とした。また実測したところ、土地が見た目以上に傾斜していることがわかり、床をフラットとした場合に西側の広い庭との落差が大きくなることから、1階の床はスキップフロアーとした。西側の庭に面するように居間を配置し、デッキを設けた。
庭は近い将来、ドッグランとして利用することを考えていて、住宅内部から人も犬も容易に出入りできるように計画した。玄関ドアを開けると、正面に居間の大きな掃き出し窓が目に入り、その視線の先には庭越しの噴火湾が広がっている。廊下を真っ直ぐ進むと床が下がり居間へと続く。南側の天井は高くなり、2階の床材の裏面と構造の梁が現しとなっている。
居間と対面で台所があり、居間側に対面のカウンターを設けた。造作の流し台は、将来のカフェ開業を見据えてシンクを2層とし、手洗い器をつけるなどした。1階にはこのほかにトイレ、浴室、ユーティリティと納戸を配し、2階はワンルームでTさんのプライベート空間となっている。天井は切妻屋根のかたちそのままの勾配形状で、構造の太い水平梁や登り梁がむきだしとなっている。
外観は切妻屋根の2層構成で、特に道路側の低層部分のファサードは、Tさんの希望の「楽しさ」や「かわいらしさ」を表現したつくりとした。外装については道産のカラマツ木酢板と、道路に面した下屋部分には道南杉の白塗装を施した板材を採用した。内部仕上げについては特に1階の玄関、廊下、居間の床は愛犬の脚への負担を考慮して、フローリングではなく磁器質タイルとした。壁はホタテ漆喰塗り仕上げ、天井に和紙を使用した。2階の内装は1階と異なる仕様で、床にはトドマツ材を使用し、壁と天井はともに和紙貼りとした。
造作家具には道産のトドマツ、断熱材にはセルローズファイバーを使用するなど、全体としては会社標準仕様の自然素材を採用しているが、注文住宅ならではのアイデアや工夫も散りばめている。玄関の土間には犬の足跡を模したタイルやビー玉を埋め込み、Tさんが趣味で生けた花を飾れるように下足入れと窓下に飾り台を施した。また壁面のニッチや窓上の飾り棚、犬のリールをとめるフックなど随所に細かい配慮がなされている。
暖房は、居間のペレットストーブ。これ1台で家全体の暖房をまかなっている。窓から射し込むやわらかい陽射しと、ストーブの炎、そして眺望を楽しめる居間で、愛犬とともに思う存分趣味を楽しむ日々を送っている。