北にニセコの山並み、南はゆるく傾斜した見晴らしのいい約1,000坪の敷地。目の前は町道に面しているものの、辺り一面はほぼ森に囲まれた静かな環境である。元々本州で生活されてきたNさんご夫婦は、かねてからご主人の定年後都会を離れ田舎でのんびり暮らすことに決めていて、そこで北海道で新たな地を求め、家を建てることにした。ご主人は学生時代を北海道で過ごし、またクラブ活動でスキーに熱中していたことから、日常的にスキーを楽しむことができるように、スキー場があり、また当時部活の拠点でもあったニセコに近い蘭越町を選んだ。購入した土地の一角には小さな住宅があり、新居ができるまでの約1年間はこの住宅と札幌市内の賃貸住宅で生活しながら、工事の過程を見守った。
Nさんの当初からの要望に、特に大きな土間と薪ストーブが挙げられ、採光と眺望に十分気を配りながらプランニングを進めた。風除室としての玄関土間には1坪の広さの納戸を設け、ご夫婦の趣味であるスキー道具一式の他、外での作業で使う道具なども収納できるような広さを確保した。室内の土間は下足のスペースでもあり、半屋外空間ともいえる。自然との結びつきが強い場所では、土足での作業もしやすい広いスペースがほしくなることも多い。靴を履いたまま薪ストーブに薪をくべることができ、また薪のストックにも便利だ。また上框に腰かけ、炎を見つめ手をかざすなど、都会ではなかなかあじわえない寒い日の豊かな過ごし方も実感できる。このような場を設けることで生活の様々な活動が広がることを期待した。
この土間は、障子越しに柔らかい陽が差し込む居間とキッチンのオープンな空間につながる。壁面はホタテ貝漆喰塗り仕上げで、天井が2階の床材の裏面と梁が露出したつくりの自然素材と木の温もりあふれる空間となっている。床は無垢の厚板トドマツ材のフローリングで、裸足の感触が心地よい。また土間は吹抜けとなっていて、開放的な2階の廊下にスケルトンの直階段がつながる。薪ストーブによる暖気はこの吹抜けから上昇し、家全体を暖める。暖房はこの薪ストーブのみで、夕方から就寝まで焚いていれば、朝から日中にかけて暖かさが持続する。会社標準のセルローズファイバーによる断熱と外壁の付加断熱、及びトリプルガラスのサッシと気密仕様によってこのような豪雪地帯でかつ寒冷地でも、ストーブ1台でまかなうことが可能となる。
キッチンはアイランド型でシンクとコンロが分かれたⅡ型の並列スタイルである。シンク側は人造大理石の天板とカラマツ材による造作で、コンロに面した壁面はオレンジ色の珪藻土タイルを使用。またキッチンに隣接して食品庫を設けた。近所にスーパーがないためまとめて買い物をし、ストックして収納できるスペースが必要だった。
1階はこのほかトイレとユーティリティ、浴室の水廻りのみで、玄関の風除スペースから直接水廻りの廊下へアクセスしやすい動線とした。外の作業で汚れたものを持って居間を通らずに水廻りへ行けるように、またトイレにも行きやすいように配慮した。
2階は階高を抑えることでコストを抑制した。階段と吹抜けをはさんで2室と、広い小屋裏的なクローゼット兼納戸がある。天井は勾配屋根そのままの形状とし、柱と梁が露出した空間となっている。床材は1階と同じ厚板のトドマツ材のフローリング仕上げ。フリースペースの窓には奥さま手づくりのステンドグラスをはめ込んだ。 建物の形状は切妻屋根のシンプルなデザインで、壁面全体が縦張りのカラマツ木酢板の素朴で自然なつくりである。広大な自然の中に静かにたたずんでいるという印象である。