札幌で永く生活されてきた60代のIさんご夫婦は、かねてからエネルギー問題に深く関心をもたれ、今後の人生において環境に負荷をかけない暮らしについて考えられた。2011年の東日本大震災も大きな契機としてますます思いはつのり、「地球にやさしい生活」を実現すべく、お子さんも独立し家を離れていることから、住み慣れた札幌の土地と家を手放し、新たな生活の地を探した。そして選んだのが雪が少なく北海道でも温暖で住みやすい伊達市の中心部に近い住宅地であった。
計画にあたって、ご夫婦が当初平屋建てを考えていたことから、わたし達は平屋の案をいくつかご提案した。LDKの他8畳の和室と広縁、ご夫婦各々の部屋を、実際に一つの階におさめるとなると平面的にかなりの大きさになり、その結果庭のスペースが圧迫される結果となってしまった。そこでご夫婦から2階建ての案もみたいというご要望を受け、2階建て案をご提案し、それまでの平屋の案とともに検討された結果、最終的に2階建てを選択された。
プランニングにあたっては、ご夫婦から事前におあずかりした資料を読みこむことから始まった。家の外観のイメージ写真や各部屋の好みのイメージなど、雑誌のページを切り取ったもので、そこからご夫婦の嗜好性を読み取り、使い勝手や機能性、そして予算とのバランスを考慮し、使用する素材の提案とともに具体的に計画が進められていった。最終的にプランの構成は、1階にLDKと広縁つきの8畳の和室、水廻り、2階にご夫婦各々のウォークインクローゼットつきの個室のほかトイレと洗面スペースが配された。また敷地の南側である道路側に広い庭と駐車スペースを確保した。
外観は和風の落ち着いた切妻屋根の構成で、低層の壁面は杉板の下見張りとし、上部は聚楽風の塗装の吹付け仕上げとした。居間と広縁の大きな掃き出し窓には木製サッシを採用。そして今回最も重視している「環境負荷」対策の一つの有効手段として自家発電のためのソーラーパネルが東側の屋根面に設置された。太陽光発電は省エネ住宅における高いポイントではあるが、Iさんの考える「環境に負荷をかけない」とは、わたし達の「製造過程においても環境に負荷をかけないものの選択」という基本理念と合致したもので、単に自然素材を使う、道産材を使うというだけで満足するものではない。またIさんは札幌の家で長く使ってきた愛着のあるもの、あるいはまだ使用できるものを積極的に新居でも再利用している。照明器具や内部の建具、床下収納庫など。洗面台のタイルやダイニングのペンダント照明器具、和室の襖紙などは特に旅行等で直接目にしたものを、新築を機に採用したいという希望があり、随所に好みの要素がちりばめられている。
主な内装としては、ナラのフローリング、ホタテ貝の漆喰塗り壁、和紙貼りの天井。造作家具は主にナラ材を使用し、そのほか断熱材にはセルローズファイバーなどいつもの会社標準仕様の自然素材を採用している。和室は雪見障子を使用し、押入の脇には地袋もある本格的な仕様とした。浴室は床と浴槽のハーフユニットに壁面、天井にヒバの羽目板を採用。浴槽に浸かりながら窓を通して庭を楽しむことができる。玄関から続く土間収納は4畳以上ある大きな収納空間で、愛犬の散歩から戻って洗面所へ至る動線としての機能も果たしている。また屋外のアプローチを含めた庭のしつらえもしっかり計画され、植樹やテラスのつくりにも気が配られている。北海道の中でも温暖で静かな環境のなか、Iさんご夫婦は季節の移ろいを感じながらの生活を満喫されている。