(1)床材の話
足から伝わってくる柔らかさ
室内空間の中で最も重要なのは、床ではないでしょうか。素足で生活する私たち日本人にとって、いつも直接体と触れている場所だからです。床は毎日酷使されているわけですから、当然、消耗も一番激しくなります。つまり、メンテナンスにも一番気を使う場所なのです。そしてなぜか、気持ちの良い床ほど手入れに手間がかかり、しっかり面倒をみなければいけません。健康リスクの少ない建材、踏み心地の良いナチュラルな素材とはそういうものなのです。
近年のシックハウスなど化学物質による室内環境の悪化は、床からの影響が最も大きいと言われます。これは、表面の仕上げ素材のみならず、下地の合板や、施工の際に使う接着剤などの複合的な問題ですから、これらをすべてクリアしなければ意味がないことでもあります。上昇気流によって床から運ばれる空気は、そこで生活する人に絶えず影響を与えることになるからです。
目を開けていると、かえって見えないこともあります。五感で何かを感じてみたいなら、部屋の真ん中で目を閉じてみるといいでしょう。さて、あなたは何を感じますか?少なくとも僕は今、足から伝わってくる柔らかで、しっかりとした木の温もりと、全身を包み込むまろやかな空気を感じています。
環境を意識して選ぶ
製造、使用、廃棄時の汚染リスクを減らすことは、今やエコ建材としてのお約束です。建材自体は自然素材といっても、接着剤や防腐剤などの化学物質をたっぷり含んでしまったものは、どうなのだろう……。そう考えると理想的なエコフロアーは、それほど多くないのかもしれません。
石油を原料とするプラスチック床材の中でも、ポリエチレンやポリプロピレンを原料にし、塩素や可塑剤を含まないオレフィン系の床材は、燃焼時の煙や有毒ガスの発生が少ない新素材。ポリオレフィンの長尺シートフロアーやカーペットタイルフロアーなどは、環境型エコフロアーの代表だといえます。
健康を意識して選ぶ
健康で安全な住まいづくりには、床の素材選びが大切なポイントになります。2003年7月に施行された改正建築基準法は、有害化学物質の使用を規制するのですが、言い換えれば今の住まいは危険がいっぱいと認めたことになります。現在、厚生労働省が室内濃度指針値を定めている化学物質は13物質ですが、数百数千といわれる化学物質が存在する中、今後どんな物質が規制の対象になっていくかわかりません。予防法はただ1つ。可能なかぎり、有害化学物質を含む床素材の使用を避けること。素材本来の良さを残したプレーンな健康フロアーを探すことです。
家を建てる時、どんな床材が使われるのか?
最近は、住宅の健康志向から、プレーンな自然素材が見直されてきています。
①木質フローリング
最もメジャーな床仕上げです。木質フローリングは大きく2つに区分されます。製造加工時のエネルギー消費が低く、化学接着剤などを使用しない無垢の材料でつくった単層フローリングと、合板や木質系ボードの表面に木を薄くスライスした皮を張り付けた複合フローリングです。自然素材ブームから、無垢のフローリングが見直されてはいますが、実際には全体の90%以上を複合系フローリングが占めています。
②プラスチックフロアー
一般住宅で水回りに使われているのは、塩化ビニール製の長尺シートフロアーです。ビニールクロスと同様に、軟らかくて加工しやすく耐水性があり、価格も安いため、急速に普及しました。しかし、環境や健康に対するリスクが高いため、使用は控えたい素材です。住宅のユーティリティーに使うような少ない面積であれば、多少割高であっても自然素材を選びたいものです。
③コルクフロアー
コルク樫しの木の表皮を合成接着剤で固めてカットしたのがコルクタイルフロアーです。断熱性、防音性、耐水性を備えた、暖かくクッション性のある素材です。僕たちは洗面所やトイレなどの水回り、マンションのコンクリート床などによく使用します。下地用の遮音シートとしても使います。接着剤を使った工法が一般的ですが、接着剤を使わずに置き敷きするフローティング工法などもあります。コルクは表面の仕上げ処理にいくつかのバリエーションがありますが、ワックスで仕上げたものには素材本来の柔らかさが残っています。時代の流れか、メーカー側も、自然ワックスで仕上げた商品を用意しています。
④リノリウムフロワー
元祖・長尺シートといえば、リノリウムです。原料は自然素材だけで構成されていて、亜麻仁油と松脂を混ぜ、この中に木の粉、コルク粉、土の顔料などを混ぜ込み、ジュートの麻布に薄く塗布したものです。2〜3㎜ほどの厚さでカットされたものと、長尺状のロールタイプがあります。カット面の小口から水が回ると、水を吸収して伸びて変形してしまうので、水回りに使う場合は、長尺シートのジョイントを専用の溶接棒でつなぎ、水の浸入を防ぐ必要があります。
リノリウムは、抗菌性、耐薬品性、耐久性があるため、病院などでもよく使われます。これは、特に、大腸菌や黄色ブドウ球菌に対する抗菌性と、カビの生えない性質が注目されたことが、理由のようです。また、静電気が起きにくい非帯電性の性質のため、事務所やコンピューター室にも向いています。耐水性にはやや欠けますが、一般の住宅レベルでは全く問題ありません。
実は、リノリウムは木とコルクの仲間で、100%天然原料からできています。自然の色合いがカラフルでおしゃれですが、亜麻仁油の独特の臭いがしばらく残るので、過敏体質の人は、事前にサンプルを取り寄せ、確かめてから使用した方がいいでしょう。
⑤カーペットフロアー
カーペットは、繊維でできた敷物です。最近、住宅ではめっきり出番を失った感がありますが、ダニのアレルゲンが残留しやすいことや、住宅性能の向上で床が冷たくなくなったことが、影響していると思われます。長尺タイプと50㎝角にカットしたタイルタイプがあり、ナイロン・アクリル・ポリエステルなどを混合させた化学繊維カーペットと、ウール・サルザイ麻・ココヤシなどを合わせた、ざっくりした粗さが魅力の天然繊維カーペットに区分されます。一般的には、どちらも防汚、防虫、抗菌の化学処理がなされています。また、カーペットの裏打ち処理の方法にも差があるので、その点もチェックしてほしいポイントです。接着剤を使わず天然ラテックスを使用した長尺タイプのカーペットや、ペットボトルの再生ポリエステルボードを使用したタイルカーペットなどがおすすめです。