BIO + STYLE
ビオプラスの家

はじめに

僕は空間デザイナー。商業施設のデザイン・施工を仕事にしていた僕にとってエコロジカルな手法でつくる住宅空間は、とても新鮮で興味を引かれるものでした。商業施設など、次々に模様替えを続けるスクラップ&ビルドな空間づくりを仕事とする毎日から、住まいを中心にした、永続可能でサスティナブルな空間づくりへと、僕の仕事に対するスタンスを大きく変えるチャンスを与えてくれたのです。

そして何よりも決定的だったことは、室内空間が原因で、病気を引き起こすことがある、と気づいたことでした。家族を守るためにも、健康に暮らせる住まいをつくらなければならないと思ったのです。また、僕の長女が小さかったころ、アトピー性皮膚炎でアレルギーの専門医院に通っていたことが、健康が住まいに関係することとして、リアルな感覚で心に響きました。家族の健康を守るための、自分の家づくりから始めたのですが、最初はどこから手をつけたらいいのか、どこまでやればいいのかわからず、とにかく戸惑いました。とりあえず使えそうな素材の情報を集めることから始め、資料を取り寄せ、素材を選択していったのです。ですから、自邸が理想の住まいづくりの実験場となっていったのでした。

それから15年近く経過し、時代はまるでエコハウス全盛期に突入しそうな勢いを感じますが、どうやらその中身は、僕が目指したエコロジカルハウスとは少し違っているようです。僕と家族を守るために始めた家づくりは、健康を脅かす原因となる合成化学物質を排除することでした。その結果として、自分が住む家が、環境に対する負荷を軽減し、最終的に土に還すことのできる家にすることが目標でした。ですから温暖化対策や省エネのために、資源やエネルギーを消費して作る、新建材や装置が主役の家づくりではないのです。

僕の最近の趣味は、有機菜園で野菜をつくることです。自分でつくってみると、これがなかなか大変で、有機栽培はとにかく手間がかかります。無農薬・無化学肥料の野菜は、ここ数年で少しずつ普及しているようですが、まだまだ安くて良いものを手に入れることはできません。さて、あなたは野菜を食べるなら、どのような野菜を食べたいと思いますか? ①農薬を使わない「無農薬の野菜」②農薬の使用量を減らした「減農薬の野菜」③農薬頼みの「普通栽培の野菜」―。

実は、住まいも野菜と同じ、というのが僕の考えです。ドイツのエコロジカル建築では「住まいは第三の皮膚」と表現されています。僕たちを守る3番目の皮膜は、住み心地の良いできばえになっているでしょうか。

この本は、特別な人が住む家づくりの話ではありません。誰もが、どこにいても手に入れることのできる、気持ちのよい住まい、人に優しく、地球に優しい自然派住宅のつくりかたを解説したものです。

本書は、1998年から、住まいの雑誌「リプラン」、「住まいNET北海道」などに連載していた記事を、再編集し新たに執筆した内容で構成されています。