2木の家にこだわる
地産地消はエコロジーの原点
今、日本各地で、地域の山の木で家を建てる運動が始まっています。地元で生産されたものは地元で消費し、地域活性化を図る「地産地消」の考えによるものですが、もう少し大きな目で見ると、国産木材を使った木の家を建てよう、ということでもあります。安い輸入木材に市場を奪われ、僕たちの身近な山の木が使われず放置されたため、日本の林業が危機に直面しているからです。日本は世界一の木材輸入国で、自給率はたったの28%。残りの72%は輸入に頼っているのが現実です。林野庁の各種統計によると、日本の森林資源成長量(使ってよい森林資源量)は、年間約8000万㎡と推計されています。一方で、全国の木材供給量は年間6480万㎡で、成長量の81%に相当しますが、実際に国産材が利用されているのは、1830万㎡で、成長量の23%にすぎません。
北海道の木材を見ても、トドマツ・カラマツなどの森林成長量が1380万㎥に対し、伐採量は約430万㎥で、成長量の30%足らず。残りの70%は使われずに放置されていることになります。国産木材を有効に利用し、自給率を高めることは、地域の山の緑や海外の森林破壊から地球環境を守ることにも直結するのです。地域の山の木で、木の家を建てることは、僕たちが祖先から受け継いだ大切な使命なのでしょう。
エコロジー素材としての木
最も優れたエコロジー素材としての木は、生産から廃棄まで、環境負荷が少ない環境循環資源でもあります。木の利用率のうち約50%が建築・家具用、残りの50%は紙や土木資材・燃料用として利用されています(財務省統計)。エコロジー素材として、環境にやさしい理由をまとめてみました。
(1)温暖化防止に役立つ
地球温暖化に影響のある二酸化炭素を吸収・固定して、酸素を供給してくれる。
木の家を建てることは、炭素を一定期間、保管することになる。
(2)省エネにも役立つ
木は、成長するのに、水と太陽エネルギーしか必要としない。
原材料として、また建築資材として加工される場合にも、単純に使われる建材ほど、製造エネルギーは極めて小さくなる。
(3)リサイクル資源として役立つ
最終的に廃棄される場合でも、チップ状に砕かれ、紙の原料や土木資材・燃料などに生まれ変わる環境資源になる。
(4)持続可能な資源である
木の家として使われる場合、最低、木の年輪の数だけ住み続け、森林を守ることにより、持続され枯渇することのない環境資源になる。
森を守ること
持続可能な資源として森林を維持していくには、林業者の多大な労力と時間が必要になります。人工林に植林された木の畑が収穫できるまでに最低40年、良材になるには、さらに30年の歳月が費やされるといいます。まさに、人の一生と同じで大変なことなのです。その間、何度か間伐が行われ、密に植えられて成長した木が混み合わないように間引きされます。初めから間隔をあけて植えればよさそうなものですが、せめぎ合って成長する方が、木はまっすぐに育つのです。なんだか野菜作りに似ています。この過程で生まれる間伐材は小径木ですから、柱や梁にはなりません。せいぜい、土木資材やチップにされるか薪になる程度でしたが、集成材や小幅板などに加工して、価値を高める工夫をしている資材工場もあります。今、木の価格は50年前とさほど変わらないらしいのです。これでは、山の仕事はやっていられないだろうと思います。
木を活かすこと
木が持っている良さは、人の健康を守る大切な力となります。木が呼吸することによる調湿性は、たとえば3mの杉の柱で、ビール大ビン2本半の水分を含み、ビン半分の水分を出し入れしています。つまり、空気が乾燥していても、ある程度の水分を木が確保してくれていることにもなるわけで、北海道の冬の乾燥した室内にはとてもよいのです。また、木は熱を伝える熱伝導率が低いため、夏の暑さや冬の寒さをコントロールするのに適している天然の断熱材でもあります。熱伝導率の低い木材を選ぶことで、より快適に暮らすことができます。樹種と板厚によっては、北海道の冬でも床暖房なしで十分暖かい床のフローリングになるのです。ちなみに、広葉樹より針葉樹の方が、熱伝導は低く温かみのある木が多くなっています。
最近では、高速道路の遮音壁に木を使い始めるなど、木には音を吸収し和らげる効果もあることが分かっています。また、ヒバやヒノキは、防腐・防虫成分を持っているので、家の土台やお風呂に使えます。高級材のイメージがありますが、節のある材料ならば、意外と安く手に入ります。木は樹種によって表情や質感、そして性能まで違ってきます。ですから、木の性質を知った上で選ぶことが大切になるわけです。
木の循環システム
木材が持続可能なエコロジー建材の代表である最大の理由は、二酸化炭素を吸収し酸素を供給する空気の循環システムを持っていることです。地球上の生物には、この循環システムが不可欠であり、このシステムの持続のためには、もっと木を使うこと、そして森林を維持管理し、消費と再生の循環サイクルを守ることが重要です。熱帯雨林などの森林伐採や乱開発は、たった1年で日本の面積の約半分の自然林を消滅させます。地球の裏側の森林を僕たちが目にすることは難しいかも知れませんが、もっと身近な山に気を配ることができるはずです。
地材地消の運動は、地場資源をもっと使い、地域を活性化させることが第一の目的ですが、使うだけでは持続はできません。そこで、森林をしっかり管理して豊かな森づくりのための仕組みをつくり、その恵みを無駄なく使うためのネットワークを広げる必要があります。人工林は、「木の畑」と呼ばれるように、植え付け、下刈り、枝打ち、間伐、そして伐採まで、とても手間のかかる作業と時間をかけて、再生資源として永遠に保持されなくてはなりません。
木でつくった家に住むということは、木の年輪の数だけ住み続ける家をつくり、維持していくことです。
森林認証制度
農産物に有機認証制度があるように、木製品にも認証制度があります。1990年から始まった森林管理協議会の「FSC森林認証」は、「木材認証制度(ラベリング制度)」とも呼ばれ、世界79ヵ国以上、日本でも33ヵ所近くの森林が、第三者認証機関から、森林管理を一定の基準に照らして評価認証されています(FSC国際本部2010集計)。この木を使った製品には、健全な森づくりから生まれた証明としてFSCマークが記され、消費者が商品を選択することで森林保護を手助けできる仕組みになっています。
しかし残念なことに、日本では認証制度の認知度があまりに低く、認証材としての価値を失っているのが現状です。認証材は、他の木材と区別されて貯木されますが、需要と供給のバランスがとれず、結果的に、一般材にまぎれて世に出ていくことになります。FSCマークが僕たちの目につくようになるためには、木材を産出する山側だけではなく、住宅の住み手側と作り手側がもっと積極的にかかわる必要があります。
新月の木の不思議
木の不思議な力を感じることは多いですが、中でも新月伐採木には魅力を感じます。冬の新月の時期に伐採された木は、カビ、害虫、腐食に強い上に割れや狂いも少ないと言われるからです。
木が育つ土の中に含まれる水分や養分は、月の満ち欠けに応じて起こる海面の上昇・下降と同じように、満月の時には地表面に上昇し、逆に新月には下降します。木や植物は、この動きに呼応して、水分と養分を吸収します。このため、新月の時期には、木材の狂い(曲がったり割れたりすること)の原因となる水分や、虫を呼び寄せる養分の吸収が少なくなります。これが、新月の時期に伐採した木が建材として優れているといわれるゆえんです。これらのことは、科学的に解明されているわけではありませんが、オーストリアでは、この時期に木材を伐採することで、防腐・防虫用の薬剤を使わずにすむといわれ、シックハウス対策につながっている実践例があります。
伐倒した木は、枝葉をつけたまま谷側に放置します。「木枯らし乾燥」により、ストレスの少ない状態で天然乾燥させます。フローリングや建具などに用いると、痩せたり反ったりがなく狂いを起こさない、まさに良材。日本を代表する木造建築の法隆寺や、バイオリンの名器ストラディバリウスは、この新月の木でつくられているとも言われています。山と住み手の距離が近くなることで、僕たちも新月の木で建てた家を手に入れることができるようになるかもしれません。
木のリラックス効果
抗菌性、酸化防止性、消臭性など、木にはさまざまな自然の効果があります。
木材に含まれる精油成分は、葉に含まれる葉油と、幹に含まれる材油で多少違いますが、森林浴効果「フィトンチッド」の源です。一般的に、広葉樹より針葉樹に、幹より葉に多く含まれています。最近注目の森林浴による森林療法(森林セラピー)は、フィトンチッドのリラックス効果によるものです。トドマツは、国産材の中でも群を抜いて精油成分を含有する木です。他の針葉樹と比較すると、ヒノキの2倍、ヒバの3倍、輸入材のトウヒ(ホワイトウッド)の8倍もあります。精油成分は、喘息の発作を防ぐ、動脈硬化を防ぐ、殺菌効果がある、ジフテリア・百日咳に効くなどといわれますが、ならば喘息の人がトドマツの香りを感じる住まいで暮らすと、喘息の症状が緩和されるのでしょうか?確かに喘息の人が、新しい木の家に移ってから体調が良くなったという話を聞いたこともあります。
ただ、精油の揮発成分は万人に良いわけではないと思うし、わからないことがまだたくさんある。しかし、さまざまな木の成分や性質は人の健康に良い効果があり、木の良さを生かした家が、健康な住まいのために必要なことは間違いありません。
地域の材料で造る「北海道の木の家」
北海道の木を90%以上使用した「北海道の木の家」は、地域で循環できる「木」にこだわった自慢の自然派住宅です。
地球環境と人の健康に負荷を与えない自然素材を使った家づくりの基本がつまった家。環境と人に与える負荷を最小限に抑えるために、(1)合成化学物質を使わない(2)下地の木材を含めて合板類は一切使わない(合板ゼロ)——を徹底し、できるかぎり北海道産の無垢の木だけで家を建てるのです。
基本仕様は、道南産のクリの薬剤無添加土台。主要構造材は道東産のトドマツとカラマツ材で、柱・梁は、家の寿命を延ばすために、決められた規格よりも一回り大きなサイズを使用します。玄関ドアや木製窓、内装枠材、幅木といった部材・建具のほか、木製キッチン、作りつけ家具なども、すべて道産無垢材で手作りします。もちろん外壁板は、道南杉やカラマツに、天然成分の自然塗料を塗った板壁仕上げです。
また、断熱材には古紙を再生したセルロースファイバーを使用。数ある断熱材の中でも、製造エネルギーの消費量(CO₂放出量と比例)が最小です。さらに、廃木材のチップなどを再生利用した40mmの断熱ボードを外張り付加断熱材として使用しています。再生された木質原料を利用することで、家を構成する大部分を、木が占めることになります。結果的に、木の総使用量は、同サイズの一般住宅に比べ1.5〜2.0倍もの地産木材を使用することになります。
特別な工法や技術を用いなくても、素材の選択を妥協せずにやりぬく気持ちがあれば、誰もが手に入れられる住まい。地域と地球環境、そして僕たちの健康にもやさしい家ができ上がります。