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ビオプラスの家

終わりに

環境と人の健康に与える影響をテーマに、ドイツのエコテスト出版社が設立されたのが1985年のことです。「エコテストマガジン」、「エコハウス」は、ドイツでは駅のキヨスクで買えるほどポピュラーな月刊情報誌です。さまざまな生活用品や家庭用品、エコ住宅、建材を紹介し、外部委託の検査機関が独自にテストを行い、雑誌で情報公開しています。消費者が安全性やリサイクル性などを判断し、健康的で環境にも優しい製品を選ぶための手助けになっているのです。そして、この「エコテストマガジン」に1991〜1993年に掲載された記事が、日本で1冊の本にまとめられています。それが、エコロジー建築の師である故高橋元氏が翻訳した『エコロジー建築』(1995年、青土社刊)です。本屋で、何となくタイトルにひかれて手にしたこの本が、僕の住まいづくりのバイブルとなっています。僕の自然派住宅の基本は、多分にこの本に影響されたものです。この本との出合いがなければ、僕が住宅建築にかかわることはなかったと思います。そして昨今の自然素材、健康素材ブームのルーツも、ここにあります。

環境先進国であるドイツで、このような雑誌が20年以上前から発売されていた背景には、新建材の登場によって住まいの室内空気汚染が進み、さまざまな健康障害に悩む人が増えてきたという実状があります。また、建て主が積極的に家づくりに参加するドイツでは、リスクの少ない素材に対する関心が高く、建材に対するエコテストが、もともと必要とされていたのでしょう。そして、この問題は、地球環境の汚染に直結する大きな問題でもあったのです。

「何もすぐにコンポスト・トイレ(貯蔵堆肥トイレ)や雨水貯蔵、屋根緑化、地下室にコージェネレーション・システム(自家発電発熱装置)の備わった完璧なエコロジー住宅から始める必要はない。壁に囲まれた居室を健康的な空間にするといった、身近なことから始めることもできる。何よりも大切なのは、建物を新築したり改造しようとする人が、どのような建築材料が世の中にあるのかを知ることだ。トパーズブルーのラッカー塗料や繊細な草柄模様の壁クロス、そしてふかふかしたカーペットや居心地の良いフローリング(木質系床)にも、毒性の化学物質がたくさん隠されている可能性がある。それは壁から屋根にいたるまで、いたるところに隠れているといえる。」(高橋元翻訳『エコロジー建築』)

この言葉に励まされながら、僕の家づくりが始まりました。

この本に出合ってから、はや15年が経過します。デザイナーとしてはあまり優秀とはいえない僕ですが、逆に見た目にとらわれず、素直に素材を吟味することができたような気がします。使える素材を探し、調達することが、当面の僕の仕事。そんな時期がしばらく続いていました。今は最低限ここまでやろう。そしてハードルの高さは年々少しずつ上がっていきます。

その間、ハードルは決して下がることはありません。(止まることはあったかな。)15年経って、少しは目標に近づいてきたように思います。少し古くなってしまった実例も、さまざまなエコスタイルがあることを知ってもらうために、あえて取り上げてもらいました。この本を通してエコスタイルで暮らすための自然派住宅と環境のことを考え直すきっかけになってもらえれば嬉しいですね。

今の僕の心境は、先のこと、難しいことは深く考えず、まずは種をまいてみる。失敗したら、その時に理由を考え、また挑戦すればいい。きっと問題は解決されるはずです。この本に書かれていることは、15年間少しずつ積み上げてきた僕の記録でもあります。

2011年4月 札幌市北区にて 西條 正幸

参考文献
「エコロジー建築」高橋元訳(青土社)
「ナチュラルハウスブック」デヴィッド・ピアソン著(産調出版)
「健康な住まいを手に入れる本」小若順一・高橋元・相根明典編著(コモンズ)
「基礎から学ぶ素材・建材ハンドブック」(建築資料研究社)
「近くの山で家を作る運動宣言」(発行・緑の列島ネットワーク、発売・農文協)
「パーマカルチャー」ビル・モリリン レニーミア・スレイ著(農文協)