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ビオプラスの家

(6)壁紙の話

壁紙のルーツを探る

最もポピュラーな内装仕上げ素材である壁紙のルーツは、2世紀の中国にまでさかのぼります。中国で生まれた紙漉きの技術は、11世紀にヨーロッパ諸国に渡りました。17世紀後半のフランスでは、装飾柄をステンシルや木版刷りする技術を使って壁紙が製造されてから、一般市民にまで普及するようになったとされます。ヨーロッパの伝統的壁紙に装飾的な絵柄のデザインが多いのは、このためです。

一方、『日本書紀』によると、中国から610年(飛鳥時代)に日本に伝わったという紙漉きの技術は200年の歳月を経て、独自の流し漉きの製法による手漉き和紙として確立されていきました。襖や障子、壁紙として一般市民にまで普及したのは、江戸時代に入ってからと言われています。ヨーロッパとは対照的に、素朴で味わいのあるプレーンな質感です。現在の壁紙の代表と言えば、残念なことに塩化ビニールを主原料につくられており、2010年度の日本での年間生産量(日本壁紙協会統計)は、他のプラスチック壁紙を合わせて、壁紙生産量全体の実に98%(面積にして5億千万㎥)にもなるのです。

シックハウス対策とJISマーク

2003年7月施工の改正建築基準法によるシックハウス対策規制により、壁紙からのホルムアルデヒドの放散量が明らかにされるようになりました。壁紙でJIS(工業規格)マークを取得している製品は、すべて規制対象外のF☆☆☆☆の等級と表示されています。しかしこれで安心していてよいのでしょうか。ホルムアルデヒドだけを対象とした表示が付いているだけで、他の問題が解決できたわけではありません。エコ建材としての評価は、環境への負荷と人の健康両面に対して配慮されていることが条件になるのです。

汚染物質の少ない壁紙を選ぶ

大切な家づくりだからこそ、製造時、使用時、廃棄時に出る汚染物質の少ない壁紙を選びたいものです。理想は、廃棄時には土に還る成分解性の素材を選ぶこと。最悪でも、焼却時に有害ガススを発生させない非塩ビ素材を選んでほしいと思います。また、汚染ゴミを出さない壁紙として、塗装用の下地柄壁紙もあります。再生紙に型押し模様をつけたり、木のチップを漉き込んだこの紙壁紙はドイツから輸入されていて、水性塗料を上塗りして仕上げるため、何度でも塗り替えができ、ゴミを出さず簡単にリフォームを完了することができます。

モデルハウスに行くと「臭いがきつくていられなかった」という話は、いまだに絶えません。壁紙や施工用のりのホルムアルデヒドが、ここ数年で明らかに減少しているとすれば、原因はほかにもありそうです。ビニール壁紙に使われる化学物質は、発泡剤、可塑剤、安定剤、難燃剤、防燃剤、防カビ剤、着色剤などにも用いられます。化学物質をできるだけ使用しない無添加の壁紙を選ぶことが、健康な住まいづくりの近道なのです。綿や麻を使った天然繊維の織物壁紙や、植物繊維を漉いた和紙壁紙の中には、製造時にできるだけ化学処理を行わずつくられているこだわりの壁紙もあります。

住宅に使われる主な壁紙

壁紙は製造される原料の種類により、いくつかのグループに分けられています。一般的な区分で紹介しましょう。※①〜④の生産量は、日本壁紙協会の統計資料を参考にしています。

①塩化ビニール壁紙

塩化ビニールを主原料とするか、表面仕上層に1㎡あたり20g以上の塩化ビニールを使用している壁紙。逆に言うと、20g以下なら、使っていても塩化ビニール壁紙とは呼ばれていません。環境意識が高まるこのご時世でも、国内生産量が圧倒的に多いのには、ただ驚くばかりです。生産量は実に全体の94%を占めています。

②プラスチック壁紙

プラスチックを主原料とするか、表面仕上層に1㎡あたり20g以上プラスチックを使用している壁紙。アクリルやオレフィン樹脂などの非塩ビ素材を使った環境対応壁紙が、このグループ。どうしてもプラスチックがいいのなら、せめてこっちにして!と叫びたくもなります。生産量はまだ5%です。無機質素材の炭酸カルシウムや硝子などの粉末を主原料としている壁紙。最近流行りの珪藻土を使った壁紙もずいぶん増えていますが、本来の機能性を求めるのは無理があるように思います。生産量は3.7%です。

③紙壁紙

普通紙、不織布、和紙などの紙を主原料としている壁紙。表面仕上層に、1㎡あたり20g以下であればプラスチックを使用していても、このグループに入っています。生産量は0.8%です。

④織物壁紙

有機質素材である綿、麻などの天然繊維やレーヨン、ポリエステルなどの化学繊維を主原料としている壁紙。残念ながら、生産量は毎年急激に減少する傾向にあります。生産量は0.3%でグループ最下位です。

一押し素材のエコ壁紙

なんだかんだ言っても結局のところ、できるだけシンプルで単純な自然素材が一番。本当に良い素材なんてモノは、そう多くはありません。壁紙ならば、紙か布。僕らの一押しは、やっぱり和紙壁紙です。

機械漉きながら伝統技術を生かしてつくられた和紙壁紙は、持続可能な収穫資源である楮、三椏、雁皮などの植物繊維を漉き込んだ、やわらかな素材感で心を和ませてくれます。表面に汚れ止めや撥水処理のコーティングをしていない素材は、和紙本来の潜在能力を十分に発揮してくれます。和紙は、水分が乾燥してセルロース繊維同士が絡み合い、水素結合することによって固まる仕組みのため、のりで固めた洋紙に比べ、水には溶けやすい性質を持っています。

逆に、この多孔質性が室内環境を整えるエアコンディショニング効果を発揮するのです。湿度調整、空気浄化、保温性に加え、最近はマイナスイオン効果もあることがわかっています。断熱性があり、光を通しながらも紫外線をカットする性能は、窓の障子として利用されてきましたが、壁紙としても、光を吸収し目にやさしく疲れないリラックス効果をもたらしてくれるのです。和紙壁紙は、まさに心も身体も健康にしてくれる、日本が誇る自然派エコ壁紙なのです。