(8)機能性建材の話
優れた「呼吸」能力を最大限に活用
健康で快適な室内環境を実現するためには、自然素材を生かした住まいづくりが大切なことは、すでに理解していただけていると思います。シックハウス対策として、化学物質によるリスクを避けるための手段でもありますが、大切なことは素材が持っている特性を最大限に活用することです。
自然素材本来の優しさ、温かさと呼吸性は、住まいが「第三の皮膚」としての役割を果たすうえでもなくてはならないものです。しかし、自然素材なら何でもよいというものではありません。無垢の木やコルクフロアーにしてみても、表面に厚い防水性の塗膜をつくってしまうと、素材本来の質感や機能を失ってしまうことになります。「呼吸する」とは、湿気を吸ったり吐いたりする性質のことで、これを「調湿性」といいますが、これは自然素材ならではの優れた能力なのです。
現在の住まいでは、湿度をコントロールすることはとても難しく、家の性能だけではどうにもなりません。住み手の生活の工夫も必要になります。断熱・気密に優れ、換気システムを備えた最新の高性能住宅は、冬の過乾燥に悩み、古い木造住宅やマンションでは過湿度による結露に悩まされているのではないでしょうか。結露はカビを呼び、カビはダニを呼ぶことになるのですから、湿度を調整する機能を持つ自然素材を利用することが、結露対策にも有効なのです。素材の特性と有効な使用法を理解すると、ずいぶん快適な暮らしを実現できるように思います。
素材の種類と特性を知る
無垢の木や漆喰壁、和紙、布織物、畳など調湿性のある素材は古くから使われてきた機能性建材でもあります。木、草、土などの自然素材は多孔質で空気を蓄える構造のため、断熱性と調湿性を備えています。さらに最近では、特に優れた機能を持つ素材を生かした建材が次々に登場してきました。調湿性に加え、臭いを分解する空気清浄効果を発揮して室内の環境を整えます。珪藻土やゼオライトを原料にした左官材料やタイル、ボード状建材、床下調湿材などが主流ですが、炭を使ったさまざまな消臭・調湿商品なども発売されています。では、代表的な素材をもう少し詳しく紹介しましょう。
①漆喰ー抗菌・防虫に効果
漆喰の原料は、動物の骨や貝殻などが堆積してできた石灰石からつくる消石灰(水酸化カルシウム)です。石灰石を高温で焼いたものを生石灰といいますが、これを加水反応させて発熱し、冷ましたものが消石灰。これに天然ののり、ワラや麻のスサ、砂などを混ぜた伝統的な白壁の左官材料が漆喰です。
下塗り、中塗りでしっかり下地をつくってから、仕上げ塗りをします。耐水性と耐久性のある仕上がりは外壁にも使われていますが、北海道では馴染みが薄いといえます。また、消石灰に水を加えて一気に消化させたものが生石灰クリームで、水性塗料の原料でもあります。練り合わせてあるため扱いやすく、施主参加のセルフビルドにはうってつけの材料といえます。アルカリ成分による抗菌・防虫効果のある天然防腐材としての特性を生かして、水回りに使うと防カビ対策にもなります。仕上げ面は硬く安定しているので、収納庫や食品棚の壁などに使うとよいでしょう。地域材として、ホタテの貝殻を使ったホタテ漆喰があります。石灰に砂状の貝殻を混ぜ合わせた塗壁材です。
②珪藻土ー保温・吸放湿・脱臭に優れる
植物性プランクトンの珪藻が堆積して化石化した土(二酸化珪素)で、最近の炭焼ブームで復活した七輪の原料としても有名です。優れた断熱・保温・調湿性能があり、耐火レンガや珪酸カルシウム板などにも使われています。日本各地で産出され、大半は工業用の濾過剤として消費されています。珪藻土に石灰や火山灰、のり、スサ、砂を混ぜた左官材料が一般的ですが、高温焼成したセラミックタイルと砕石状の調湿剤やボード状に加工した製品があります。最近人気のエコ建材といえます。
珪藻土は表面に小さな孔がたくさんある多孔質で、保温・吸放湿・脱臭などの機能に優れた素材です。左官材は土壁風のソフトな風合いが心地よい雰囲気を出します。特に焼成したタイルと床下調湿材は、優れた機能を発揮します。
③ゼオライトーペットの床砂にも利用
天然硬石のゼオライトの和名は「沸石」で、加熱すると、多孔質に含まれる水分が沸騰して見えることからつけられています。日本全国各地から約30種類の鉱石が採石されています。土壌改良材や肥料としても利用されていますが、土中の肥料分や水分、さらには病原菌などを吸収したり、必要な時には放出したりする機能があるためのようです。機能性建材として、ボード状やタイル状に加工したり、高温焼成した床下調湿材などがあります。また、建材というよりペットの床砂として、お馴染みの素材でもあります。
④炭ー調湿性に優れた「黒炭」
調湿素材として、もう一つ忘れてはならないのが、炭。床下に炭を敷き込むことが、密かなブームになっていますが、炭には2つの種類があることを理解しなければなりません。ひとつは「黒炭」で、比較的低めの400〜700℃で焼いた炭です。もうひとつは1000℃以上で焼いた「白炭」で、備長炭でお馴染みの炭です。調湿用に使うならば、一般的な黒炭の方が向いています。
また、使用する木の種類によっても性質は変わるようで、広葉樹よりも針葉樹のほうが調湿性があり、より適しています。北海道ではあまり心配しなくてもいいかも知れませんが、炭は吸湿しすぎると飽和して放湿できなくなるとも言われていて、使い方には注意が必要です。
調湿性素材の選び方
家を建てる時、実際に、どの調湿素材を選んだらよいのでしょうか?正直、困ってしまいます。用途によって使い方が変わるのは当然ですが、内装仕上げ材として選ぶなら、それぞれ独特の風合いもあり、好きなテクスチャーで選んでもいいように思うのですが、あくまで機能性を重視するのであれば、素材の特性と建材としての完成度が重要になります。
はっきり言って、建材メーカーのカタログに出ているキヤッチフレーズほど、あてにならないものはありません。吸放湿の性能を単に比較しても、どの素材が一番優れているかは言えないのです。たとえば、珪藻土は産出地によって呼吸性能が大きく変わります。極端な話、呼吸する土と呼吸しない土があるというのです。建材となった時、機能性材料の産地や使用量と、最終的に使われるボリューム(厚み)によっても、働く機能は大きく左右されることになります。また、左官材や塗料には樹脂系接着剤が含まれるものがほとんどで、樹脂が機能を阻害することは十分考えられます。健康と環境に与えるリスクを考えても、天然原料にこだわった素材を選びたいものです。
珪藻土やゼオライトは、焼成することで、機能牲が格段に向上します。焼成したセラミックタイルを使うと、洗濯室や浴室など湿度が極度に高くなる部屋の環境を画期的に改善するほどの効果があります。幸い北海道には、優れた機能を発揮する高機能珪藻土が豊富にあります。結露、カビ対策としておすすめしたい一品です。